個人の立場に立って、それがどこまで学びとれたのかと、学びという視点がないんですね。教える視点ばかりなんです、一方的に
2010年2月5日放送 NHK総合 特報首都圏
学べない子どもたち
法政大学教授 教育評論家 尾木直樹さん
日本の学校の教師というのは、教えることにはものすごく熱心なんですよ。一生懸命教えようとしますし、教科書を厚くしたりとか、いろんなことを工夫しているんですけれども、個人の立場に立って、それがどこまで学びとれたのかと、学びという視点がないんですね。教える視点ばかりなんです、一方的に。子どもの側に学んだかというのがないんですよね。基本的に日本の学校の教える一方のやり方を学年主義と言います。3年生ではこれを教えます。4年生ではここを教えると、40人の中で、ダーと教えていくわけですね。それが習得できているかどうかというのは、ほとんど問題にされてないんですよ。ひとりに学力がついているかというのはほったらかしにして、いっちゃいます。本当は、国際的な視点で言えば、多くのヨーロッパの国なんかは、習得主義と言います。習得したかどうかが大事なんですよね。日本の場合は、学年主義ということで、習得できていなくても学年進行で上がっていっちゃうんです。
基本的に、学ぶということは、子どもたちの権利であって、わたしたち大人や社会は、きちっと学び取っていけるようなことを保証していく義務があるわけですよね。
先生方も苦しいと思われるんですよね。一生懸命やっておられるんですが、残念ながら、日本の一つの教室のサイズは40人なんですよね。40人というのは、OECDの基準で言えば、30人と言われているんですね。それに反しているよと言うので、勧告もこの10年間で2回ぐらい出ている状態で、非常に非常識な出来っこないことをやっているわけですよ。40人で一人一人の習得主義を貫くことはできないですよね。
基本的に、学びというのは、昔と全然違っちゃっているんですよね。昔はたとえば学力があまりなくても、健康で人柄がよければ生きていくことができましたけれども、今は国際社会では学びというのはどういうふうに位置づけているかというと、現代の社会というのは、知識基盤社会というふうに呼んでいるんです。知識が基盤になっている社会だと。しかもIT化しているわけですよね。しかもグローバリズムが非常に進んでしまっている。この中では、学力というか、学ぶという力がないと、生きていくことができない。つまり、子どもたちにとっては、生きるためのセーフティネットになっているんですよ。そういう意味では、社会福祉の領域からきちっと抑えるということがすごく重要だと思います。
人生前半期の社会保障と言いまして、定義づけられる方もいるぐらいなんですよね。もうひとつ重要なことは、国にとってはどうなのかという問題なんですよ。国にとっても、今、これだけ知識基盤社会になってきた中では、子供たちが学力をつけてくれなければ、国が成り立っていかないんです。そういう意味では、例えば、フィンランドという国は学力が世界一と言われていますけれども、あそこの国なんかは教育に投資することを未来への投資と呼んでいるんですね。例えば、オランダなんかは、国家の資産というふうにして、子どもたちの学力を大事にしています。そういうふうにして、今、国際社会は学力というのが、子供にとっても、国家にとっても重要だと。国にとってはライフラインだという位置づけで頑張ろうとしている、そういう視点がすごく重要だと思いますよね。
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